【検証事例】SNSで拡散したAI生成による観光地のフェイク画像の検証
導入
近年、人工知能(AI)の進化により、非常に精巧な画像を容易に生成できるようになりました。その結果、現実には存在しない、あるいは実際の状況とは異なる内容の画像が、あたかも真実であるかのようにSNSなどで拡散される事例が増加しています。特に、誰もが知る有名な場所、例えば観光地などをテーマにしたAI生成画像は、視覚的なインパクトが強く、多くの人の関心を引きやすいため、誤った情報として拡散されるリスクが高まります。本記事では、そのようなAI生成による観光地のフェイク画像の一事例を取り上げ、その詳細、拡散経緯、そしてどのようにして真偽を見分けるかを解説します。
事例の詳細と拡散
今回取り上げるのは、「日本の有名な観光地が異常な状況に見舞われている」といった内容でSNS上に投稿され、広く拡散されたとされる画像です。この事例では、例えば「京都の清水寺が大規模な洪水で水没している」「富士山の山頂に奇妙な巨大構造物が出現した」といった、実際にはありえないような光景が、写実的なタッチで描かれていました。
これらの画像は、「○○(地名)の今の様子です」「信じられない光景ですが、これが現実です」といった、不安や驚きを煽るようなキャプションと共に投稿されることが多く見られました。著名な場所であるため、多くの人が興味を持ち、「まさか」「本当か」といった反応と共に、画像が次々とシェアされ、短時間のうちに広く拡散していきました。中には、真偽を確認することなく、安易に「いいね」を付けたり、コメントを書き込んだりするユーザーも見受けられました。
真偽の検証方法
このような、一見して驚くような画像を目にした際、その真偽を判断するためには、いくつかの点を注意深く確認する必要があります。
- 画像そのものの不自然さの確認:
- AI生成画像には、しばしば細部に不自然な点が見られます。例えば、被写体の輪郭が曖昧である、テクスチャが単調で繰り返されている、遠近感が不自然である、文字が読めない、人物の手や指が不自然な形状をしている、といった特徴です。今回の事例のような風景画像の場合、水面や波紋、植物の葉、建物の装飾などが現実とは異なる描写になっていることがあります。画像を拡大して細部を確認することが重要です。
- 写っている場所の実際の情報との比較:
- その画像に写っているとされる場所の、信頼できる最新情報を確認します。公式ウェブサイト、信頼性の高い報道機関のウェブサイトに掲載されている写真やニュース記事、Googleストリートビューのようなサービスなどを参照し、画像の風景が現実と一致するかを比較します。今回の事例であれば、清水寺や富士山の現在の状況に関する公式発表や報道を確認します。
- 画像検索や逆検索ツールの活用:
- Google画像検索やTinEyeなどの逆検索ツールを使用して、その画像がインターネット上で過去にどのように使用されているかを調べます。同じ画像が古い日付で投稿されていないか、あるいは、その画像がAI生成ツールに関連するフォーラムや記事でサンプルとして使用されていないかなどを確認できます。同じ画像が複数の異なる文脈で使われている場合、フェイクである可能性が高まります。
- 情報源の信頼性の確認:
- 画像を投稿したアカウントやウェブサイトが信頼できる情報源であるかを確認します。そのアカウントが過去にどのような情報を発信しているか、公式な組織や個人であるかなどを確認します。匿名の個人アカウントや、情報源が不明瞭な投稿は、特に注意が必要です。
- 日時との整合性の確認:
- 画像が投稿された日時と、画像の内容(例:大規模な自然災害の発生など)が整合するかを確認します。もし画像の内容が重大な出来事を示唆しているにも関わらず、その時期に信頼できる報道や公式発表が一切ない場合、情報の信憑性は低いと考えられます。
検証結果と根拠
上記の検証方法に基づき、今回SNSで拡散された観光地の画像について検証を行った結果、それらの画像はAIによって生成されたフェイクであると判断されました。
その根拠としては、主に以下の点が挙げられます。
- 画像自体の不自然さ: 画像を詳細に確認すると、建物の構造の一部が歪んでいる、水面の表現が現実離れしている、あるいは遠景の描写が曖昧で不整合が見られるなど、AI生成画像特有の不自然な痕跡が確認されました。特に、複雑な形状を持つ部分や、繰り返しパターンが多い部分で顕著な破綻が見られました。
- 実際の状況との相違: 清水寺や富士山といった、画像に写っているとされる場所の公式情報や信頼できる報道を確認した結果、画像が示唆するような大規模な洪水や奇妙な構造物の出現といった事実は、その時期に一切発生していないことが明らかになりました。
- 画像検索の結果: 逆検索ツールを用いて画像を検索したところ、同じ画像がAI生成ツールのコミュニティフォーラムや、AIアートを紹介するウェブサイトでサンプル画像として投稿されていたことが判明しました。これにより、これらの画像がAIによって創作されたものであることが裏付けられました。
- 情報源の信頼性の欠如: これらの画像を最初に拡散したとされるアカウントの多くは、情報の信頼性が低い個人アカウントであり、過去にも不確かな情報を発信していた履歴が見られるものがありました。
これらの根拠から、拡散された画像は現実の様子を写したものではなく、AIによって創作されたフェイク画像であると結論付けられました。
この事例から学ぶこと
この事例は、AI技術の進歩により、視覚的に説得力のあるフェイク画像が容易に作成され、拡散されうる現実を示しています。このような事例から、情報の真偽を見分けるために、以下の点を学ぶことができます。
- 安易に画像を信じない習慣: SNSなどで流れてくる、特に驚くような内容の画像に対しては、「本当だろうか?」と一旦立ち止まって考える習慣をつけましょう。
- 細部を確認する重要性: 画像全体の印象だけでなく、細部を拡大して注意深く観察することで、AI生成画像特有の不自然さを見抜けることがあります。
- 複数の情報源での確認: 一つの情報源だけでなく、信頼できる複数の情報源(公式発表、大手報道機関など)で同じ情報が報じられているかを確認することが極めて重要です。
- 知っている場所こそ疑う: 自分が知っている場所、行ったことのある場所に関する情報だからといって、無条件に信じ込まないようにしましょう。自身の知識や経験と照らし合わせ、不自然さを感じたら検証を行う姿勢が大切です。
- 感情に流されない: 不安や怒り、驚きといった感情を煽るような投稿には、特に注意が必要です。感情的な反応をする前に、冷静に情報の真偽を判断するように心がけましょう。
まとめ
SNSで拡散される画像や動画の中には、AI技術などを悪用したフェイク情報が紛れ込んでいることがあります。今回取り上げた観光地のフェイク画像の事例は、視覚的に非常に説得力があっても、冷静に検証を行えばフェイクであることを見抜くことができることを示しています。情報の真偽を見分ける力を養うことは、デジタル社会において自らを誤った情報から守るために不可欠です。怪しいと感じた際には、本記事で紹介したような検証方法を参考に、情報の真偽を確かめる一歩を踏み出していただければ幸いです。