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【検証事例】SNSで拡散した「雲で作られた手」画像の検証

Tags: フェイク画像, SNS, 検証, 雲, 画像加工

導入

インターネットやSNS上では、時に現実離れした、目を引く画像が拡散されることがあります。こうした画像の中には、自然現象や奇妙な出来事をとらえたものとして紹介されるものがありますが、その全てが真実であるとは限りません。今回取り上げる事例は、SNSで「空に人間の手のような形をした雲が現れた」として拡散された画像です。その神秘的あるいは不気味な見た目から多くのユーザーの関心を引き、瞬く間に広まりました。

事例の詳細と拡散

問題となった画像には、青空を背景に、巨大な人間の手の形をしたかのような雲が写し出されていました。指の形や手のひらの曲線が比較的はっきりと見て取れるため、見る者に強い印象を与えます。「これは何を意味するのだろうか」「自然の力なのか」「不気味だ」といったコメントとともに、個人のアカウントから主にX(旧Twitter)やFacebookなどのSNSを通じて拡散されました。多くのリポストやシェアを集め、「あり得ない光景」として話題となりました。

真偽の検証方法

この画像が本当に自然に発生した雲を捉えたものなのか、あるいは何らかの加工が施されたものなのかを検証するため、以下の点に着目し、複数の方法で確認を進めました。

まず、画像の不自然な点を洗い出しました。自然界の雲は様々な形をとりますが、今回のような明確で精巧な「手」の形を長時間維持することは、気象学的に極めて考えにくい現象です。特に指のような細部まで明確な輪郭を持つことは稀です。

次に、画像検索(逆検索)ツールを使用して、画像の出典や類似の画像が存在しないか調査しました。Google画像検索やTinEyeなどのツールに画像をアップロードし、インターネット上の他の場所でこの画像が過去に掲載されていないか、あるいは似た画像が見つかるかを確認します。これにより、オリジナルとされる画像が過去に別の文脈で使用されていないか、あるいは加工の元になった可能性のある画像がないかを探ります。

また、気象学の専門家や関連情報の信頼性を確認します。このような極めて珍しい自然現象であれば、気象庁や専門機関から何らかの発表があるはずです。公式な情報源や信頼できる科学系メディアで、同様の雲の報告がないか確認することは重要な検証ステップです。

さらに、画像自体に加工の痕跡がないか技術的に分析することも有効です。画像の境界線、ピクセルパターン、照明の不自然さなどを詳細に調べます。画像編集ソフトによって合成された場合、不自然な境界線や、背景と被写体の色の馴染み方に違和感が生じることがあります。専門的な知識やツールを用いることで、より詳細な分析が可能になります。

検証結果と根拠

これらの検証の結果、この「雲で作られた手」とされる画像は、自然現象ではなく、画像加工によって作成されたフェイク画像である可能性が極めて高いと判断されました。

その根拠として、まず気象学的に、自然の雲が人間の手のような精巧な形状を長期間維持することは考えられません。雲は常に形を変え、風や気圧、温度などの影響を大きく受けます。

画像検索の結果、この画像は過去に遡って複数回、異なるユーザーによって投稿されていることが確認されましたが、その元となる撮影場所や正確な日時、撮影者といった情報は特定できませんでした。また、よく似た構図で、別のオブジェクト(例えば動物や物体)が雲の形として加工されたとみられる画像も複数見つかりました。これは、特定の人物が画像加工によって複数の「雲の形」を作成し、拡散している可能性を示唆しています。

さらに、画像の詳細な分析では、雲の輪郭や内部の質感に不自然な点が見られる場合がありました。特に、背景の空との境界線が不自然であったり、雲のパターンが繰り返し見られたりする痕跡が、画像編集ソフトによる加工を示唆していました。

気象庁や信頼できる気象関連の専門機関から、このような特殊な形状の雲が観測されたという公式な発表や報告は一切確認されませんでした。

これらの点から、当該画像は、現実には存在しない形状の雲を画像編集によって作り出し、「自然現象」としてSNS上で拡散されたものと結論づけられます。

この事例から学ぶこと

この「雲で作られた手」の事例から、私たちは情報の真偽を見分けるためにいくつかの重要な教訓を得ることができます。

第一に、あまりにも現実離れした、あるいは劇的な画像や情報に接した際には、すぐに鵜呑みにせず、一度立ち止まってその真偽を疑う姿勢を持つことが重要です。感情に訴えかけるような、インパクトのある情報は、特に注意が必要です。

第二に、画像の真偽を確認する上で、画像検索(逆検索)は非常に有効な手段です。気になる画像を見つけたら、画像検索ツールで元の画像や関連情報がないか調べてみましょう。これにより、古い画像が最新の出来事として使われていないか、あるいは加工の痕跡が見つかる場合があります。

第三に、情報の信頼性を確認する際には、その分野の専門機関や信頼できるメディアなど、複数の情報源を参照することが大切です。今回の事例であれば、気象に関する公式発表などを確認することが有効でした。

第四に、画像自体に不自然な点がないか、自分の目で注意深く観察する習慣をつけましょう。輪郭の不自然さ、影の方向、色の違和感など、細部に加工の痕跡が隠されていることがあります。

まとめ

SNSで拡散された「雲で作られた手」とされる画像は、検証の結果、自然現象ではなく画像加工によって作成されたフェイク画像である可能性が高いと判断されました。この事例は、インターネット上には巧妙に加工されたフェイク画像が存在し、それが容易に拡散される現実を示しています。私たちは、目にした情報、特に画像や動画の真偽について常に意識を持ち、様々な方法で確認を行うことの重要性を改めて認識する必要があります。情報の真偽を見抜くための知識とスキルを身につけることは、情報化社会を生きる上で不可欠な力となります。